ケガやヤケド、先天異常など、体の機能障害を手術で治療する「形成外科」が、美容医療の分野で存在感を高めているようだ。
第67回日本形成外科学会総会・学術集会では「ニッポンの美容外科の未来のために、われわれがなすべきこと」というテーマでシンポジウムが開催された。このテーマは多くの関心を集めて、形成外科の医師が立ち見するほど。形成外科の医師が美容医療の技術をどう習得しているかなどが話し合われた。なお、シンポジウムは2回に分けて広かれ、この記事では1回目について伝える。大学で美容医療を学べるようにするといった新しい動きが始まっている。
「形成外科の先に美容医療」
- 美容外科に対する認識→以前は否定的な雰囲気。形成外科と美容医療の相性は良くても拒否反応
- 美容医療への新規参入医師の問題→増加する一方で、技術不足によるトラブルが絶えず発生
- 形成外科と美容外科の関係→互いに補い合う関係で、機能を治す技術と形態を整える技術が共通点との指摘
- 形成外科医の美容医療への貢献→形成外科での訓練が美容医療に直結し、美容医療の技術向上に貢献可能
シンポジウムの企画をまとめたのは、座長を務めた、帝京大学形成口腔顎顔面外科学主任教授の小室裕造氏、RE_CELL CLINIC/リセルクリニック(大阪市中央区)の原岡剛一氏。
「美容外科という言葉に対して破門同然の雰囲気があった」と原岡氏は指摘する。形成外科は形を整える手術に長けているため、美容医療と相性は良いが、拒否反応も根強い。主に保険診療を行う形成外科で、自由診療の美容医療への反発は存在する。
しかし、美容医療への新規参入医師が増加する一方で、技術不足などでトラブルも絶えず発生している。美容医療分野への医師は、形成外科のような手術の基本など学べていないことも少なくないと見られる。
聖路加国際病院形成外科の初代部長である、松倉クリニック代官山大竹ラボ(東京都渋谷区)の大竹尚之氏は、「形成外科の機能を治す技術と、美容外科の形態を整える技術は互いに補い合う車の両輪」と説明する。例えば、生まれつき唇や口の中が裂ける先天異常の一つ、口唇口蓋裂などを治療することは形成外科の役割だが、見た目を整えることは美容医療と変わらない。
大竹氏は、聖路加などでの経験を基に、機能と形態の治療は共通し、形成外科医が美容医療の技術を向上させることが可能と指摘した。
1990年代から大学や台湾などで形成外科医として美容医療に取り組んできた、リラ・クラニオフェイシャル・クリニック(東京都中央区)東京院院長の菅原康志氏は、「形成外科での訓練が美容医療に直結する」と述べた。また、形成外科で美容医療経験が資格取得の面で求められていない現状を変えていくことも必要ではないかと提案した。米国では美容医療が形成外科の重要な柱の一つで、日本も学会が美容医療の教育に本腰を入れるべきだと訴える。
藤田医科大はクリニックと連携
- 齋藤隆文氏→韓国での勤務経験から、形成外科の美容面の意識が美容外科に役立つと説明。医師間の支援関係が成長につながると述べる
- 犬飼麻妃氏→形成外科と美容外科の学習に対する重い負担を軽減しようと、外部美容クリニックとの連携で研修体制を構築
- 山本崇弘氏→美容外科に対する大学環境の拒否反応を指摘し、改善の必要性を訴え。美容外科を隠す医師を「隠れキリシタン」と比喩
聖路加国際病院形成外科医幹の齋藤隆文氏は、韓国で勤務した経験を踏まえて、「形成外科で美容的な面を意識し続けていくと間違いなく形成外科の経験は美容外科に役立つ」と説明。周りの医師同士で支え合う関係があることで医師として成長できると述べて、若い医師に見学の場を紹介するなど支援することが重要と話した。
藤田医科大学ばんたね病院形成外科・美容外科助教の犬飼麻妃氏は、大学の形成外科に所属しながら空いた日などで美容外科を自主的に学んだ経験を紹介しつつ、休日返上など重い負担を背負いながら美容医療を学ばざるを得ない状況は変えていこうとしている。
そこで藤田医科大では、外部の美容クリニックと連携し、大学の形成外科所属医師が美容外科研修を受けられる体制を構築している。犬飼氏は、形成外科と美容外科の両立のメリットを協調し、教育体制の構築の重要性を説く。
ヒフコNEWSで取り上げているが、藤田医科大は東京に自由診療専門クリニックを設置し、美容医療を取り入れようとしている。犬飼氏はここでも診療に当たっている。
コントアクリニック東京(東京都中央区)院長の山本崇弘氏は、美容外科に対する拒否反応を持つ大学環境を指摘し、改善の必要性を指摘した。美容外科をやろうとする人はそれを隠すことも珍しくなく、中世に迫害を恐れて潜伏してキリスト教を信仰した「隠れキリシタン」のように潜伏していると表現した。
国際的な流れと日本の美容医療教育
- 国際的な認識→海外では「Plastic surgery」が形成外科と美容医療を包含する概念として理解されている
- 貴志和生氏の指摘→形成外科と美容外科は方向性が同じであり、美容医療における形成外科の専門性の活用と教育システムの構築が求められる
形成外科と美容外科の融合に向けた動きは、業界内外で注目されている。
形成外科はヤケドを含むケガ、生まれつきの体の異常である先天異常、出来物などの腫瘍を治療する分野であり、これまでは美容医療とは異なる領域ととらえられがちだった。しかし、美容医療への関心が高まる中、形成外科の技術と美容医療との間には自然なつながりが存在することも認識されるようになり、形成外科の医師による美容医療への積極的な参加が進んでいる。
美容医療分野でのトラブルは、専門的な訓練を受けずに美容医療に携わる医師が増えていることも関連するとされる。これらの問題に対処するために、形成外科での美容医療に関する教育の強化が必要とされている。一方で、形成外科を経ずに直接美容医療に進出するケースは珍しくなく、形成外科での教育機会が限られている中で、美容医療に関心を持つ人を遠ざけている可能性もある。
海外では、「Plastic surgery(形成外科)」が形成外科だけではなく、美容医療も含む概念として理解されている。このような国際的な流れも受けて、日本でも形成外科と美容医療の垣根を低くし、両分野の融合を図るべきだという声もある。
日本には日本美容外科学会が2つあり、形成外科の医師が中心になっているJSAPSと、美容医療の開業医が中心になっているJSASという2つの学会が存在している。同じ美容医療に関わる2つのタイプの学会がどのように協力していくかも重要だろう。
シンポジウムの会場には日本形成外科学会理事長の貴志和生氏(慶應義塾大学形成外科教授)も参加していた。貴志氏は形成外科と美容外科は方向性が一緒であり、美容医療では形成外科の専門性は活かせること、教育システムが求められていることを指摘した。
美容医療で形成外科の知識や技術がどう生かされるかは、美容医療でトラブルが相次ぐ中で関心のテーマになっている。