美容医療を受けるとき、どんな麻酔をするの?麻酔は危なくない?など不安を感じる方も多いのではないでしょうか。美容クリニックでの死亡事故は麻酔が原因というケースが多いにもかかわらず、麻酔にリスクが伴うことはあまり知られていません。
ただ、麻酔といっても多くの種類があり、それぞれに効き目やリスクが異なります。安全に美容医療を受けるためにも、麻酔についての知識を身につけておくことが大切です。
そこでこの記事では美容医療で扱う麻酔の種類と危険性について解説します。これから美容医療を受けることを検討されている方はぜひお読みになってください。
美容医療で扱う麻酔と使用する目的
麻酔というと外科手術や歯科治療などで知られていますが、美容医療でも麻酔を用いた治療が行われます。まず始めに、麻酔とはどんな薬で、なぜ麻酔を使う必要があるのか正しく知っておきましょう。
麻酔とは?
麻酔とは治療による痛みや苦痛を軽減するために、薬物などによって痛みをはじめとする感覚を鈍麻もしくは消失させることをいいます。麻酔には「全身麻酔」や「局所麻酔」などの種類があり、治療のレベルや目的によって使い分けられます。
なぜ麻酔を使用するの?
痛みだけではなく感覚や意識を消失させることで、痛みや苦痛を伴う外科治療による負担を減らすことが目的です。さらに医学的に説明すると、麻酔には次のような目的があります。
無痛
痛みを感知・伝達する神経の働きを遮断、脳や脊髄に作用して中枢神経の働きを抑えることで無痛作用を発揮します。痛みを感じないようにすることで、美容外科手術などに伴う痛みを緩和することができます。
鎮静・健忘(意識の消失)
痛みを感じないだけではなく、例えば全身麻酔や静脈麻酔では意識を消失させて眠らせる効果もあります。特に広範囲に治療を行う場合には、精神的な苦痛や不安感が強いことから麻酔によって鎮静・意識消失をさせることも麻酔の大切な役目です。心理的な負担を軽くするために麻酔を適切に取り入れた治療が行われます。
筋弛緩
筋弛緩とは筋肉を緩めて柔らかくするという意味です。特に外科手術は皮膚の下にある筋肉が緊張した状態では行えないため、筋肉を緩める薬を使用することで、より深部まで外科的なアプローチが可能になります。ただし、筋弛緩薬を使用すると呼吸をする筋肉の動きも緩めてしまうため、全身管理が必要な全身麻酔でのみ使用が可能です。大きな手術でのみ使用されます。
刺激に対する反射の抑制
人間は無意識下でも外部からの刺激に対して反射を起こしてしまいます。手術中にこの反射が起こることで治療の妨げとなることがあるため、反射を抑制することも麻酔の大きな目的の一つとなっています。全身麻酔下でのみ使われます。
麻酔の種類と特徴
では、実際には美容医療においてはどんな麻酔の種類があるのでしょうか?それぞれの用途、効き目、リスクなどの特徴についてご紹介します。
テープ麻酔
テープ麻酔はリドカインを有効成分とする、皮膚に貼って使用するタイプの麻酔薬です。ペンレステープというテープ麻酔が広く一般的に使用されています。貼付後10~15分で表面の感覚が麻痺するようになります。
ただし、浅くまでしか効かないため、表層部の治療には適しますが部位によっては他の麻酔と組み合わせることもあります。
主に使われる治療
- シミ取りレーザーやイボ・ほくろ取りレーザー等照射時の熱感の緩和、注入や注射の針が刺入する際の痛みの緩和、フラクショナルレーザーやダーマペン等
メリット
- 安全性が高い。テープで貼るだけなので簡便
デメリット
- 浅い層にしか効かない。痛みを緩和する効果が弱い
笑気麻酔(痛みの緩和力は弱い)
歯科治療でも用いられる笑気(亜酸化窒素)による吸入麻酔です。ほのかに甘い臭いがあり違和感なく吸入でき、吸入後5分程度で鎮静状態に至ります。
用途
- サーマクールやハイフの施術、タトゥ除去、その他施術の補助、麻酔前の不安や緊張を和らげる
効き目
- 痛みを緩和する作用は弱い
メリット
- 全身的な影響が少ない。治療後も速やかに効果が消失するため日帰り治療でも使用できる
デメリット
- 単独では痛みを緩和する作用は弱い。他の麻酔と併用で用いられることも多い
クリーム麻酔
クリームタイプの塗る麻酔薬で、塗った部分の痛みを和らげます。効かせたい部位に厚めにクリームを塗布した後、皮膚への浸透率を上げるためにラップなどで被覆して用いられることが多いようです。リドカインとプロピトカインを配合したエムラクリームが日本で広く使われている麻酔クリームとなりますが、院内で調合したリドカイン濃度の高いクリームや、海外からより麻酔効果が高い製剤を個人輸入して、より痛みの少ない治療を目指しているクリニックもあります。
用途
- 医療脱毛レーザー、ヒアルロン酸注入やボツリヌス注射、フラクショナルレーザーやダーマペン等、など
効き目
- 塗って30分程度で効果が現れる。真皮層への注入には適するが、皮下組織までは達しにくい
メリット
- 塗るだけで良いため簡便である
- ペンレステープよりも麻酔効果が高いとされている
デメリット
- 成分にアレルギーが有る場合は使用できない
- クリームに対するかぶれ、赤み、腫れなどのアレルギー反応が出ることがある
- 広範囲に塗って副作用が出た場合に、テープと比べて除去しにくい
- 麻酔の効果が現れるまでに時間がかかる
局所麻酔(注射で注入)
施術を行う部分に注射で麻酔薬を注入し部分的に麻酔をかける方法です。細い針を用いることで針刺し時の痛みは少なくなるよう配慮されています。また、注入で用いられるヒアルロン酸製剤には、麻酔成分であるキシロカインが配合された製品も数多くあり、局所麻酔効果で痛みを和らげながらの施術が可能とされています。
用途
- 糸リフト、二重術、わきが多汗症手術、脂肪吸引など
効き目
- テープ剤やクリーム剤と比べて深い部分まで麻酔の効果がある
メリット
- 意識を保ったままで比較的侵襲性の高い手術にも適応する
- 即効性がある
- 手術中も意識が保てるため、医師と会話することができる
デメリット
- 表面のみに麻酔をかけるテープ剤やクリーム剤と比べるとリスクは高まる
- 針を刺すことによる痛み、出血などを伴う可能性がある
静脈麻酔
点滴で静脈から麻酔薬を注入することで、短時間だけ眠りをもたらす麻酔です。全身麻酔の一種ではありますが、ガスを使った麻酔とは違い呼吸を止めることはないため、挿管などの必要もなく、術後の入院なども不要です。意識がないことで、痛みによる恐怖を感じることがないというメリットがあります。局所麻酔などと併用して使われることもあります。麻酔が効きすぎることで呼吸が弱くなるなどの合併症が起こるリスクも有るため、麻酔中はモニターで酸素濃度を確認して手術を行うクリニックが多いようです。睡眠麻酔とも言われることがあります。
用途
- 脂肪吸引、豊胸手術など
効き目
- 20分から30分程度眠らせる作用があるが2-3時間程度で覚醒する、痛みをほとんど感じることなく侵襲性の高い手術が可能
メリット
- 痛みをほとんど感じずに済み、全身麻酔よりも意識回復が早い
- 恐怖心を感じずに治療を受けられる
デメリット
- 状態によっては気道確保に気管挿管を必要とする場合もある
- 局所麻酔と比べて覚醒に時間を要する、前日の絶食が必要など制限が増える
全身麻酔
麻酔ガスを吸入して完全に眠った状態にする方法で、完全に意識を消失させます。一瞬で眠りに入るため不安感なく手術を受けられます。意識消失だけでなく、筋弛緩や鎮痛、反射の抑制といった全ての作用が得られる麻酔法ですが、呼吸も完全に止まってしまうため、気管挿管による呼吸の確保などの全身管理が必須となります。全身麻酔は、麻酔効果は高いものの生死にかかわるリスクを伴うため、手術を行う医師とは別に麻酔科専門医が必要となります。また、術前に血液検査が必要だったり、前日の絶食が必要になります。
近年では、ラリンゲルマスク(ラリンジアルマスク)という気管挿管を必要としない特殊なマスク型麻酔器具が登場したことで、より体への負担が少ない全身麻酔ができるクリニックもあるようです。
効き目
- 麻酔法の中では最も効き目が優れている
メリット
- 深く切開する必要がある手術や痛みが強い手術を無痛で行うことができる
デメリット
- 心電図や呼吸の管理など麻酔医による全身管理が必要
- 術後入院の必要がある場合がある
- 前日の絶食や術前の血液検査などが必要
安全に美容医療を受けるには?
麻酔は安心して、無痛で治療を受けるために用いるものですが、正しく使用しなければ副作用や思わぬ事故が起きることもあります。あらかじめリスクを知っておき、なるべく安全に美容医療を受けられる方法を選ぶようにしましょう。
麻酔で死亡事故が起こる理由
国内での麻酔による死亡事故は決して件数こそ多くはありませんが、海外を含めると度々ニュースに取り上げられることがあります。
多くの事故は麻酔を適切に麻酔専門医が管理せずに、専門以外の手術を担当する医師が麻酔管理まで行ったことが原因です。麻酔には専門知識が必要であり、とくに全身麻酔を使用する場合は必ず麻酔医の管理を伴う必要があります。
安い・早いといったことを売りにしている場合や海外の美容クリニックでは、適切な麻酔の管理が行われていない可能性もあります。事前に麻酔の取り扱いや管理体制まで確認しておくようにしましょう。
マシンや注入・注射では局所麻酔まで
治療によっては麻酔が必要な場合もありますが、リスクとベネフィットを比較してから納得して治療を受けることが大切です。とくにリスクの面で言えば、全身麻酔や静脈麻酔よりも部分的にしか効果を発揮しない局所麻酔(ペンレステープ、クリーム麻酔など)を選んだ方が全身の負担は少なくなります。
マシンによる施術や注入・注射による美容医療であれば基本的に局所麻酔までとなっており、近年の新しい技術の開発により、麻酔をしないで高い効果が得られる治療も増えています。クリニックによって麻酔に対する考え方が異なる場合も多いので、治療を受ける場合にはあらかじめ麻酔の方法まで確認しておくようにしましょう。
まとめ
美容医療における麻酔についてご説明しましたが、いかがでしたか?麻酔は痛みなく、不安を感じずに安心して美容医療を受けるためには欠かせない存在です。実際には麻酔も進歩しているので、昔と比べて事故は減ってきています。ただ、どんなに安全といわれてもリスクがゼロではないことも確かです。十分に説明を受けた上で、信頼できるクリニックを選んで美容医療を受けることをおすすめします。