漢方薬を使ったニキビ治療は、ニキビのできにくい体質を目指す長期的な治療方法です。「皮膚科でニキビ治療を受けているのになかなか治らない」という方や、「今の治療では副作用が強くて継続できない」という方は、漢方治療の併用を検討してみてもよいかもしれません。
今回の記事では、漢方薬と抗生物質との違いや、皮膚科のニキビ治療で用いられる頻度の高い漢方薬の種類を解説します。
2021.09.09
漢方薬でニキビは治る?その治療法とは
漢方薬を用いたニキビ治療方法について
日本皮膚科学会の尋常性痤瘡(ニキビ)治療ガイドラインで漢方薬による治療法は、「他の治療が無効、あるいは他に治療が実施できない状況においての選択肢の一つ」として推奨されています。
漢方薬は今できているニキビの改善だけでなく、ニキビができやすい体質を根本的に改善していくことを目的とした治療のため、下記のような条件に当てはまる場合、漢方治療を推奨されることがあります。
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- 抗生物質の内服や、塗り薬の治療で一時的に改善がみられてもまた繰り返しニキビができる
- 吐き気や食欲低下などの副作用により、抗生剤の継続的な内服が難しい方
漢方は体質を診ている
東洋医学では、人間の体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」の3つの要素が体の中を巡っていて、バランスよく整っている状態が「健康」だと考えられています。そのため、この3つのバランスの乱れによって身体の不調が現れると、ニキビなどの肌トラブルが起こりやすくなるとされています。
人それぞれ体質は異なるため、自分の体質に合った漢方薬を処方してもらうことが重要です。
- 「気」:気は生活を営む根源的なエネルギーとされています。目で見ることができない無形のエネルギーであり、代謝や精神活動を含めた機能を統括する役割と考えられています。
- 「血」:血は、気の働きを担って全身を巡る血液や栄養分と定義されます。身体に必要な栄養をもたらし、身体・臓器を形作っています。
- 「水」:水は汗やリンパ液など、血液以外の体液を意味します。老廃物を排出しながら、体内の水分バランスを整える働きをもつとされています。
ニキビ治療で使用する漢方薬と抗生物質の違い
皮膚科のニキビ治療で処方される「漢方薬」と「抗生物質」にはそれぞれ異なる特徴があるので、皮膚科で診察の上、適切な薬を処方してもらうとよいでしょう。本章では、漢方薬と抗生物質の特徴や、メリット・デメリットを解説します。
ニキビ治療で使用する漢方薬
漢方薬は、「生薬」という天然の植物や動物、鉱物を2種類以上組み合わせて作られているため、1つの漢方薬の中に多くの有効成分が含まれています。そのため、1つの漢方薬でもいろいろな病気や症状に効果が期待できるといわれています。
漢方薬は、抗生物質と比べて即効性は劣りますが、今あるニキビだけの改善を目的とするのではなく、ニキビができやすい体質そのものの改善を目的としているのです。症状だけでなく、体質・体型・自覚症状などを判断して、一人ひとりに適した漢方薬を処方されることが多いです。
生理周期に合わせてニキビが増える、生理不順、慢性の病気の他、冷え性といった体質による症状などには、漢方薬が向いていることもあるでしょう。
メリット
- ニキビができにくい体質を目指せる
- 耐性菌ができないため、長期的に服用できる
- 抗生物質よりも比較的副作用が出にくい
デメリット
- 抗生物質と比べて即効性が劣る場合が多い
- 漢方薬だけでは強い炎症を起こしているニキビの治療が難しいため、他の治療と併用することが多い
ニキビ治療で使用する抗生物質
抗生物質には、ニキビの原因である「アクネ菌」を殺菌する効果があり、赤ニキビなどの炎症のあるニキビに対して処方されます。
抗生物質は、化学的に合成した成分でできている場合がほとんどで、特定の疾患や症状に対して効果を発揮し、体質に関わらず病気や症状に対して薬が処方されることが多いです。
炎症を抑える即効性が期待できますが、長期使用により薬の耐性菌(菌やウイルスに対して抵抗力を持ってしまうこと)ができる可能性があります。
また、内服薬により胃腸障害などの副作用がみられる頻度も低いとはいえないため、長期的な服用は推奨されていない場合が多いです。
医師と相談の上、治療を進めることが重要といえるでしょう。
メリット
- 赤ニキビなどの炎症を抑える効果において即効性が期待できる
- 早期に炎症を落ち着かせることで、ニキビ跡を残しにくくすることが期待できる
デメリット
- 肌に有効な働きをする善玉菌(常在菌)も殺菌してしまうため、長期的に服用をしているとニキビが悪化する恐れがある
- 長期間使用すると耐性菌ができるため、できる限り服用期間を最小限にとどめることを推奨されている
- ニキビができやすい体質自体は改善できないため、再発する可能性もある
- コメドや白・黒ニキビには効果が期待できない
2021.09.09
ニキビの改善・予防効果が期待できる漢方薬3選
本章では、日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡治療ガイドライン」でニキビ治療の選択肢として推奨されている3種類の漢方薬を紹介します。
十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)
十味敗毒湯には、「桜皮(おうひ)」という桜の樹皮の成分が配合されています。桜皮は、男性ホルモンのひとつである「アンドロゲン」に対する「抗アンドロゲン作用」があるのが特徴で、皮脂の過剰分泌を抑える働きが期待できます。
また、桜皮は女性ホルモンのひとつである「エストロゲン」生成を促し、ホルモンバランスを整える効能も期待できるといわれています。生理前にニキビが悪化するという方や、ホルモンバランスや生活習慣の乱れなどによる内的要因からできることの多い「大人ニキビ」の改善を目指すことができるのです。ただし、製造会社によっても成分が異なり、桜皮(おうひ)成分の配合されていない十味敗毒湯もあるので、事前に成分を確認すると良いでしょう。
どのようなニキビに効果が期待できるか
- 発症初期〜化膿しているニキビ
- 生理前後に増えるニキビ
- 同じ場所に繰り返しやすい大人ニキビ
荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)
余分な熱や腫れを冷やして追い出し、肌の代謝を高めることを目的として処方されることが多いです。
首から上の炎症に効く処方とされていて、ニキビ治療のほかに蓄膿症や慢性鼻炎、扁桃炎の治療にも用いられています。
どのようなニキビに効果が期待できるか
- 慢性的なニキビ
- 化膿をしているニキビ
- 炎症のある赤ニキビ
清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)
顔の熱や炎症をとり、また皮膚炎の病因を発散させる働きがあります。
炎症を抑える「黄連」や「黄ごん」、排膿を促す「桔梗」など、ニキビの治療に役立つ生薬が配合されています。
どのようなニキビに効果が期待できるか
- 炎症のある赤ニキビ
- 化膿しているニキビ
ニキビ治療に使う漢方薬の副作用や市販品との違いは?
ニキビ治療に用いられる漢方薬の副作用とは
漢方薬の副作用として多いのは「甘草(かんぞう)」の摂りすぎによるものだといわれています。甘草は、医療用漢方製剤148品目のなかで7割以上の漢方薬に含まれていて、摂りすぎることによって「偽アルドステロン症(浮腫、高血圧、低カリウム血症)」が引き起こされる可能性があるのです。
薬の飲み合わせによっても副作用を招く可能性があるため、自己判断での服用は注意が必要とされています。
漢方は市販品と処方薬では何が違う?
漢方薬はドラッグストアなどで市販でも販売されているため、手軽に手に入りやすいイメージをお持ちの方もいるのではないでしょうか。しかし、自己判断での購入は体質に合わない薬を選んでしまったり、かえってニキビの悪化を引き起こす恐れもあります。
また、漢方薬は製造会社によって配合成分が異なることもあります。
さらに、市販の漢方薬は医療用に調合された漢方薬と比較すると薬効が弱いことも少なくないので、医療機関で処方されたものを服用することが、ニキビができにくい肌を目指す上で大切といえるでしょう。
漢方薬でニキビの改善が見られない場合は?
日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡治療ガイドライン」で、漢方薬のニキビ治療は「他の治療が無効、あるいは他の治療が実施できない状況では、一つの選択肢として推奨する」といったものです。つまり、まずは強く推奨されている治療を優先的に行い、難治性のニキビや、他の治療が副作用などで続けられない場合に選択すべきである、といった位置づけになります。
実際の臨床現場では「漢方薬は個人差が大きく、効果は様々である」といった印象といわれることが多いです。また、即効性は乏しく、毎日しっかり服用を継続することで、効果が得られることが多いため、飲み忘れのないように継続的に根気強く服用することが重要だと考えられています。
よって、ニキビ治療のファーストチョイスで漢方薬を用いるというよりは、一般的な治療を行った後、その結果を元に症状や体質を考慮した上で進めていく治療方法であると考えられています。
ニキビの改善に上手く漢方薬を取り入れよう
ニキビ治療の選択肢として推奨されている漢方薬は「十味敗毒湯」、「荊芥連翹湯」、「清上防風湯」の3種類です。
漢方薬は、抗生物質の内服と比べると即効性は劣りますが、今あるニキビだけの改善を目的とするのではなく、ニキビができやすい体質自体の改善を目的としているのです。
ニキビの最初の治療として漢方薬を用いるというよりは、まずは一般的な治療を行い、その後に考慮される治療方法であると考えられています。皮膚科で医師に診察してもらった上で漢方薬を処方してもらうとよいでしょう。
飲み忘れのないように継続的に根気強く服用することがニキビができにくい体質を目指すために重要だといえるでしょう。