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自由診療で行われる再生医療の有害事象、国内調査が過少報告の可能性を指摘、国立がん研究センターなどのグループが報告

カレンダー2023.11.27 フォルダー 国内

ポイント

  • 国内で研究目的、治療目的で行われている再生医療の有害事象を調査
  • 治療目的の再生医療では、有害事象の報告数が不自然に低い可能性を指摘
  • 再生医療において有害事象を報告する意識を高める必要性が強調された
有害事象の報告は適切?写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

有害事象の報告は適切?写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 美容医療などの自由診療で提供されている再生医療において、適切なトラブルの報告が行われていない可能性が指摘されている。この問題について、国立がん研究センターをはじめとした国内の研究グループが2023年11月16日付けで論文を発表している。

 再生医療に関連して、幹細胞培養上清液に関連した死亡事例が報告されており、有害事象の適切な報告が一層注目される可能性がある。

治療目的の再生医療で有害事象の報告が少ない

過少報告の可能性を指摘。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

過少報告の可能性を指摘。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 日本では安確法(再生医療法)に基づき、国が認定した委員会の審査をクリアすれば、再生医療を治療目的または研究目的で再生医療を実施することができる。これらの再生医療を行った場合、何らかのトラブル、つまり「有害事象」が発生したときには、報告が義務づけられている。

※「薬機法」は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」、「安確法」は「再生医療等の安全性等確保に関する法律」のそれぞれ略称である。再生医療法とも呼ばれる。

 今回、研究グループは、安確法に基づいて実施されている再生医療において、有害事象がどれくらい起きているかを調査した。再生医療の投与件数に加えて、厚生労働省に報告された有害事象の件数、認定再生医療等委員会の議事録に基づいて届出された有害事象の件数を明らかにした。

 ポイントは、投与件数に対する有害事象の報告数が、治療目的の方で少ないというところ。例えば、2020年度を見ると、治療目的の方では、投与件数が10万9715件に対して、有害事象の報告は、厚労省のデータでは2件、委員会への届出は10件になっている。それに対して、研究目的では、投与件数4033件に対して、厚労省のデータで7件、委員会への届出では25件となっている。

研究目的

 

項目 2019年度 2020年度
研究計画における投与件数 5126 4033
厚生労働省に提出された研究の有害事象報告数 4 7
認定患者団体等委員会に届出された研究の有害事象報告数 17(+1) 25

治療目的

項目 2019年度 2020年度
治験計画における投与件数 9万3808 10万9715
厚生労働省に提出された治験の有害事象報告数 3 2
認定患者団体等委員会に届出された治療の有害事象報告数 6(+1) 10

※出典は国立がん研究センター研究トピックス。(+1)は「研究または治療のいずれの計画における有害事象の発生なのか不明な報告が1件あった」と説明している。

 研究グループは、「治療計画における投与件数が研究計画における投与件数よりも桁違いに多いのにもかかわらず、有害事象(疾病等)の報告件数は治療計画の方が少ないことが明らかになりました」と指摘する。

適切な情報公開の仕組みづくりは重要

委員会。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

委員会。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 研究グループは、さらに、薬機法に基づいて国が承認した再生医療等製品3品の情報からも、使用回数と有害事象の報告数を比べている。データは次の通り。

再生医療等製品

項目 2019年度 2020年度
再生医療等製品(3月末)の使用回数 451 339
再生医療等製品(3月末)の有害事象報告件数 125 129

※出典は国立がん研究センター研究トピックス。

 使用回数およそ3件に1件の割合で有害事象が発生している計算になる。具体的に見ると、2020年度は、使用回数339回に対して、有害事象の報告件数は129件となる。129/339=38%の比率で有害事象が発生していることになる。

 これらを合わせて考えると、安確法に基づいて行われている、治療目的の再生医療では、有害事象の発生率が不釣り合いに低いことになる。

 研究グループはこのような発生率の差について、「再生医療法に基づいて実施されている治療計画では、有害事象(疾病等)の報告制度が適切に機能しているのか、疑義が生じます」と指摘する。

 再生医療に関連して、幹細胞培養上清液の投与に関連した死亡事例が報告されて、大きく注目されている。安全な再生医療が行われるように情報が適切に公開される仕組み作りが求められている。

参考文献

再生医療法に基づく再生医療で生じる有害事象の報告状況を調査―報告件数の少なさは何を意味するのか?
https://www.ncc.go.jp/jp/information/researchtopics/2023/1120/index.html

Ikka T, Hatta T, Saito Y, Fujita M. Does the Act on the Safety of Regenerative Medicine in Japan ensure “safety”?: Implications of low adverse event reporting. Stem Cell Reports. 2023 Nov 3:S2213-6711(23)00414-9. doi: 10.1016/j.stemcr.2023.10.012. Epub ahead of print. PMID: 37977143.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37977143/

エクソソーム規制強化、美容医療ルール作りに注目、日本再生医療学会が厚労省で提言
https://biyouhifuko.com/news/japan/4254/

エクソソームとPRP、2030年に向けて大幅成長の予測、その理由とは?
https://biyouhifuko.com/news/japan/4224/

幹細胞培養上清液に関連した死亡事例の発生、再生医療抗加齢学会が報告
https://biyouhifuko.com/news/japan/4005/

エクソソームの安全性に注目集まる理由、幹細胞培養上清液での死亡事例の報告がきっかけに
https://biyouhifuko.com/news/japan/4036/

再生医療連載vol.1 日本独自の再生医療のルールを解説、知っておきたいこと
https://biyouhifuko.com/news/column/958/

再生医療連載Vol.2 再生医療委員会に5つの問題発覚、公正さ欠く実態など明らかに
https://biyouhifuko.com/news/column/1022/

再生医療連載Vol.3 エクソソームとはそもそも何か──第22回日本再生医療学会総会の会議を通して考える
https://biyouhifuko.com/news/column/1159/

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ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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