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エクソソームの安全性に注目集まる理由、幹細胞培養上清液での死亡事例の報告がきっかけに

カレンダー2023.10.29 フォルダー 国内

ポイント

  • 幹細胞培養上清液の使用による死亡例が報告され、エクソソームの安全性が注目
  • エクソソームを含むとされる幹細胞培養上清液の点滴や注射が一般的に行われている
  • エクソソームの定義と抽出方法はあいまいで、規制されておらず、国の承認も受けていない
エクソソームは細胞から分泌される。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

エクソソームは細胞から分泌される。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 エクソソームの安全性について注目が集まっている。2023年10月、再生医療抗加齢学会が幹細胞培養上清液を使ったことによる死亡事例の発生を報告。これが関心が高まるきっかけになった。

なぜエクソソームが注目されたか

幹細胞の培養上清液で死亡事例。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

幹細胞の培養上清液で死亡事例。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 今回、エクソソームが注目されたが、その背景には、美容医療クリニックなどで行われている自由診療の一環として、エクソソームが含まれているとされる幹細胞培養上清液の点滴や注射が一般的に行われていることがある。

 エクソソームとは、細胞から放出され、脂肪層に包まれた微小な粒子のことで、細胞が健康でいるためなどに重要な物質が含まれていると考えられている。

 一方、幹細胞培養上清液は、幹細胞を育てるための液体で、ここには幹細胞から分泌された物質が含まれているとされる。その中には、エクソソームも含まれていると考えられている。

 さらに、美容医療クリニックの中には、幹細胞培養上清液にとどまらず、抽出された「エクソソーム」として点滴や注射を行っているところもある。

 このような「幹細胞培養上清液」や「エクソソーム」は、細胞を健康に保つという考え方から、「エイジングケア」「若返り」などの目的として治療は行われている。

 しかし、これらはかねて有効性や安全性の根拠がはっきりしないという課題も指摘されていた。

エクソソームの定義や抽出法は確立されていない

科学委員会報告書「エクソソームを含む細胞外小胞(EV*)を利用し た治療用製剤に関する報告書」。出典/PMDA科学委員会

科学委員会報告書「エクソソームを含む細胞外小胞(EV*)を利用し た治療用製剤に関する報告書」。出典/PMDA科学委員会

 ヒフコNEWSでも伝えたが、エクソソームをめぐっては複雑な状況がある。

 まずエクソソームは定義があいまいで、エクソソーム製剤に関する規制もない状態になっている。エクソソームを純粋な状態で取り出す方法も確立されていない。

 日本では2023年1月にPMDA科学委員会が、「エクソソームを含む細胞外小胞(EV*)を利用し た治療用製剤に関する報告書」を発表している。これは世界で初めてのエクソソームの公的な説明書となった。

 しかし、この報告書では、エクソソームをめぐって解決されていない問題が多く存在することを指摘している。エクソソームは将来性があると可能性を示している一方で、どのように使うべきかのコンセンサスが得られていない。

 そうであるにもかかわらず、美容医療クリニックで「エクソソーム」の治療を行っているのは、細胞から分泌される小胞のうち、特定の特徴を持ったものをエクソソームと見なして点滴や注射に利用しているからだ。

※現状では、CD9分子やCD63分子といった特定の分子が表面に現れている細胞外小胞をエクソソームと見なして使っている状況がある。ただし、その測定の実態も十分に公開されていない。

 エクソソームをどう使うべきかについて、国際的に統一されたルールがまだないため、現在のエクソソームと呼ばれるものを使った治療は、安全性や有効性が正しく確かめられていない、実験的な治療と考えるのが適切だろう。

未承認の医薬品や医療機器を使う課題

研究が続いている。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

研究が続いている。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 今回、幹細胞培養上清液を使った人で死亡事例が報告されたことで、未承認の製剤による治療の問題が広く注目されたが、未承認の薬剤や医療機器が一般的に使われている状況は多くの美容医療に関連する施術で共通している。最近も、シワ治療のためのb-FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)の使用が注目されたばかりだ。

 つまり、未承認の治療が行われているという意味では、美容医療全体の課題とも無関係ではないといえる。今後、今回の幹細胞の培養上清やエクソソームの問題が注目されたことが転機になって、美容医療における医薬品や医療機器の承認の問題があらためて注目される可能性もある。

参考文献

幹細胞培養上清液に関連した死亡事例の発生、再生医療抗加齢学会が報告
https://biyouhifuko.com/news/japan/4005/

再生医療連載vol.1 日本独自の再生医療のルールを解説、知っておきたいこと
https://biyouhifuko.com/news/column/958/

再生医療連載Vol.2 再生医療委員会に5つの問題発覚、公正さ欠く実態など明らかに
https://biyouhifuko.com/news/column/1022/

再生医療連載Vol.3 エクソソームとはそもそも何か──第22回日本再生医療学会総会の会議を通して考える
https://biyouhifuko.com/news/column/1159/

再生医療連載Vol.3 エクソソームとはそもそも何か──第22回日本再生医療学会総会の会議を通して考える
https://biyouhifuko.com/news/column/1159/

シワ改善などで行われるPRP+b-FGFのトラブルどう見る?幹細胞研究に長く関わる科学者で、AASJ代表理事の西川伸一氏に聞く
https://biyouhifuko.com/news/interview/3777/

日本の美容医療、課題と展望 日本美容外科学会JSAPSの前理事長の大慈弥(おおじみ)裕之氏に聞く
https://biyouhifuko.com/news/interview/253/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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