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「肥満症治療薬は美容などに使う薬ではない」、日本肥満学会が声明

カレンダー2023.11.29 フォルダー 国内

ポイント

  • 日本肥満学会が、病気のない人などに美容などの目的で使うべきではないと声明
  • 薬を使うのは、肥満症や健康障害があるなどの病気を持つ人に限るよう求めた
  • 急性膵炎などの副作用の発生の可能性についても情報提供している
セマグルチドは、世界的な品不足が指摘されている。(写真/Adobe Stock)

セマグルチドは、世界的な品不足が指摘されている。(写真/Adobe Stock)

 2023年11月25日、日本肥満学会が「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」を定め、このたび発表した。病気でもない人に美容やダイエット目的で使う薬ではないと明言している。

肥満症治療薬として公定価格が定まる

厚生労働省。(写真/Adobe Stock)

厚生労働省。(写真/Adobe Stock)

 ヒフコNEWSで何度も伝えているが、「GLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1薬)」と呼ばれる薬が世界中で人気を博している。この薬はもともと糖尿病の薬として使われていたが、体重を減らす効果が注目され、肥満症薬としても承認される動きが出ている。

 最初に肥満症薬として米国で承認されたのがセマグルチドと呼ばれる薬で、同じ効果を持つ複数の薬が承認される予定になっている。

 日本では2023年3月に肥満症治療薬としてセマグルチドが承認され、11月22日に「薬価収載」と呼ばれる公定価格が定められたことで発売となった。

※セマグルチドは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬として知られる薬。血糖値を下げるホルモンのインスリン分泌を促進し、血糖値を低下させる効果を持っている。もともと糖尿病治療を目的として開発されたが、体重減少の効果から肥満症治療を目的としても開発され、日本を含めて各国でそれぞれの治療目的で承認されている。なお、注射薬と飲み薬が存在しており、使用目的と薬の形態によって商品名が異なっている。糖尿病治療を目的とする場合、注射薬は「オゼンピック」という商品名で、飲み薬は「リベルサス」という商品名。肥満症治療を目的とする場合、注射薬は「ウゴービ」という商品名である。今後、肥満症治療を目的とした飲み薬が登場する可能性がある。

 今回、日本肥満学会はこの薬価収載を受けて声明を公開した。

薬の適用となるには条件

日本肥満学会が声明。(出典/日本肥満学会)

日本肥満学会が声明。(出典/日本肥満学会)

 同学会は、美容目的での同薬を使うべきではないとはっきりと示している。

「本剤は健康障害を伴わない(したがって肥満症とは診断されない)肥満に用いるべきではなく、また低体重や普通体重など適応外の体重者に対し美容・痩身・ダイエット等の目的で用いる薬剤ではない点には、十分留意すべきである」

 今回、肥満症治療薬が適用されるのは、次の2つの条件のどちらかに当てはまり、しかも食事療法・運動療法を行っても十分な効果がない場合となる。

BMI27以上で、2つ以上の健康障害を持つ場合 2つ以上の健康障害は、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のうちいずれかに加えて、11の健康障害のうちいずれかを持つ場合。
11の健康障害とは、耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞・一過性脳虚血発作、非アルコール性脂肪性肝疾患、月経異常・女性不妊、閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、運動器疾患(変形性関節症:膝関節・股関節・手指関節、変形性脊椎症)、肥満関連腎臓病である。
BMIが35以上で、条件を満たす場合 条件は、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のうちいずれかを持つ場合。

 GLP-1薬は、糖尿病の薬であるものの、単独で使った場合に低血糖を起こすリスクは低いという。ただし、ヒフコNEWSでも伝えたが、急性膵炎や胆嚢炎などの病気を引き起こすリスクが高まることが報告されており、注意を要する。

 今後、美容医療などで自由診療において、肥満症のない人を対象としてこの薬を使うことは避けるように求められることになりそうだ。

参考文献

肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント(策定:2023年11月25日)
http://www.jasso.or.jp/contents/Introduction/academic-information.html

体重減少効果で注目の「GLP-1薬」、まれながら重い副作用の報告、米国医師会雑誌が注意呼びかけ
https://biyouhifuko.com/news/world/4374/

ダイエット目的の薬が不足、厚生労働省に糖尿病治療薬の要望書、関連団体が提出
https://biyouhifuko.com/news/japan/4213/

肥満症対策の新薬セマグルチド、心臓病などの予防効果も
https://biyouhifuko.com/news/research/2958/

肥満症の新たな治療法?セマグルチド飲み薬が体重減少に効果
https://biyouhifuko.com/news/research/2373/

「GLP-1ダイエット」広告、美容医療の新たな問題?厚労省が委員会で議論
https://biyouhifuko.com/news/japan/3731/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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