
若手医師の美容医療流入はどうなるか。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
日本国内で「直美」について注目されることが増えた。これは医学部卒業後、初期研修2年を終えた若い医師が、保険診療の専門研修を経ずに、そのまま美容医療へ進む動きだ。頻繁にメディアで取り上げられている。
ここであらためて、ヒフコNEWSとして、日本の医師が美容に進む動きについて、6回の短期連載で見ていく。
最初は、2024年に英国の医学誌でオンライン公開された、日本の研究者らによる寄稿より。寄稿の掲載時点で、医師側からこの問題がどう見えていたのかを見つつ、この動きについて考える。
高報酬だけではなく、病院側の魅力低下も背景にある

病院の課題。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 直美は年間約200人→ 初期研修後すぐ美容医療へ進む医師は、新規登録医師の約2.1%。
- 報酬と働き方→ 高収入や当直の少なさがあり、若手医師に魅力的に映りやすい。
- 病院側の課題も→ 保険診療のキャリアや将来像が見えにくいことも。
この寄稿は、福島県立医科大学の研究者らがまとめたものだ。
寄稿では、初期研修を終えた直後に美容医療へ進む医師を「Chokubi」として取り上げている。直美を選ぶ新規医師は年間およそ200人で、新たに登録される医師全体の2.1%に当たるという。また、2022年時点で美容外科クリニックを主な勤務先とする医師は約1200人に達し、2008年から3倍に増えたと説明している。その半数は20代か30代とされる。
寄稿で紹介されているのは主に美容外科クリニックの数字だが、筆者としては、美容皮膚科なども含めれば、美容医療に関わる若手医師の広がりはさらに大きい可能性があると見る。
その上で、寄稿では、若い医師が美容医療に進む動きが広がっている背景として、報酬と働き方の違いを挙げている。美容クリニックでは、経験の浅い医師でも年収2000万円を超える求人があり得る一方、病院で働く研修医の平均給与は435万円とされ、収入面で大きな差がある。この辺りは、一般のメディアなどでもたびたび注目されているところだろう。
さらに、美容医療では夜間の当直や救急対応がない場合が多く、勤務時間や生活リズムを保ちやすい。こうした条件の違いが、若手医師にとって美容医療を魅力的な進路に見せていると説明している。
ただし、寄稿が指摘しているのは、美容医療の待遇の良さだけではない。若手医師が、保険診療の分野で将来のキャリアを具体的に描きにくくなっていることも背景にあるとしている。
医師は、大学卒業後に2年間の初期研修を終えると、その後は内科、外科、小児科、産婦人科など、自分が専門にしたい分野を選び、専門医を目指してさらに数年間の研修を受けるのが一般的だ。この研修では、決められた病院や関連施設で勤務しながら、必要な症例や経験を積んでいく。
寄稿では、2018年に始まった専門研修制度について、必要性は高いものの、専門研修制度や病院キャリアの見通しにくさが、若手医師の進路選択に影響している面があると指摘している。
専門医を目指す仕組みは、医療の質を高めるうえで重要な役割を持つ。一方で、若手医師から見ると、勤務先や地域、診療科の選択が制度に左右されやすくなる場合がある。地域医療や救急、外科、産科など、社会的には欠かせないものの人手不足や負担の大きい現場に関わることになれば、キャリアの自由度が低いと感じられる可能性がある。
働き方改革で収入補填が難しくなる可能性

若い医師の働き方。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 働き方改革の影響→ 医師の時間外労働に上限が設けられ、従来の働き方が変わりつつある。
- 収入補填が難しく→ 外部病院でのアルバイトが難しく、病院勤務の収入面の不安へ。
- 現実的な選択肢→ 高い報酬を得やすい美容医療が、若手医師にとってより意識されやすくなる。
また、寄稿は、若手医師が伝統的な医療分野で十分なキャリアの見通しを持ちにくく、自分が望む働き方を実現しているロールモデルを見つけにくいことにも触れている。
保険診療の現場には、高い専門性を持ち、社会的に重要な役割を果たしている医師が多い。しかし若手医師の立場から見ると、長い研修や多忙な勤務の先に、どのような働き方、役割、処遇が待っているのかが見えにくい場合がある。身近な先輩医師の中に、専門性を高めながら納得できる働き方を実現している存在が見えにくければ、「自分もこの道を進みたい」と感じにくくなる。
さらに、寄稿は、2024年に始まった医師の働き方改革の影響にも触れている。
働き方改革では、医師の時間外労働に上限が設けられた。長時間労働を是正するために重要な取り組みだが、病院の人員体制や業務量の見直しが十分に進まない場合、若手医師の負担感が必ずしも軽くならない可能性がある。診療、研修、研究、書類作成などの仕事が多いままでは、制度上は労働時間が抑えられても、キャリア形成に必要な作業や準備が勤務時間外に残ることも考えられる。
筆者としては、働き方の管理が強化された結果、若手医師が外部の病院でアルバイトをして収入を補っていた従来の働き方が難しくなったことも、大きな影響を持つと見る。病院勤務の給与だけでは十分な収入を得にくい場合、外部勤務による収入補填は若手医師にとって重要な意味を持っていた。その選択肢が狭まれば、病院に残りながら収入を確保する道が見えにくくなり、最初から高い報酬を得やすい美容医療が、より現実的な選択肢として意識されやすくなる。
美容医療への流入が進む一方で、保険診療の病院キャリアが選ばれにくくなっている面もある。美容側にある理由だけではなく、病院側が若手医師にとって納得できる処遇や働き方、将来像を示しきれているかも問われる。美容医療の拡大は、美容医療だけの問題ではなく、病院医療が若手医師をどう確保していくのかという問題としても見る必要がある。
若い医師が美容へ向かう流れの今後は?

診療科目別の診療所の2020年と比べた23年増加率。(出典/厚生労働省)
- 美容外科医は増加→ 東京都では美容外科に従事する医師数が4年間で62.6%増えていた。
- 若年化も進む→ 美容外科医の平均年齢は下がっており、若い医師の流入が数字にも表れている。
- チェーンごとに差→ 初期研修後すぐ美容医療に入る院長の割合はチェーンによって違い。
若い医師が美容医療へ向かう流れは、ヒフコNEWSがこれまでの記事で確認してきた国内データにも表れている。東京都の統計をもとにした記事では、美容外科に従事する医師数は2018年の412人から2022年には670人へと増え、4年間で62.6%増加していた。平均年齢も45.7歳から43.2歳へと下がっており、人数の増加と若年化が同時に進んでいることが分かる。女性医師の割合も上昇していた。
また、ヒフコNEWSが2024年4月に公表した美容医療チェーン院長の経歴に関する独自調査でも、早い段階で美容医療に入る医師の存在が確認されている。6つの美容医療チェーンの院長215人のうち、初期研修後に専門研修へ進まず、最短で美容医療施設に入職したと判断できた院長は38人で、全体の18%だった。湘南美容クリニックでは124人中32人で26%、品川美容外科では15人中5人で33%に達していた。一方で、城本クリニック、共立美容外科、東京美容外科では該当者は確認されず、チェーンによって差も見られた。
ただし、この調査は院長を対象にしたものなので、現在の若手医師全体の実態をそのまま示すものではない。院長になるまでには一定の年数がかかるため、最近入職した勤務医は十分に反映されていない可能性がある。筆者としては、勤務医まで含めて見れば、初期研修後の早い段階で美容医療に入る医師の割合は、院長調査より高くなる可能性もあると見る。
施設数の面でも、美容医療の拡大は目立っている。厚生労働省の2023年の医療施設調査では、美容外科を標榜する一般診療所数が2020年の1404施設から2023年には2016施設へと増え、3年間で43.6%増加していた。形成外科や皮膚科の診療所も増えており、美容医療に関連する領域の存在感は高まっている。
開業規制などでは流入を抑えるには限界

厚生労働省。(写真/Adobe Stock)
- 開業規制の限界→ 美容医療への流入を抑えるには、単純な規制だけでは不十分。
- 質と安全の確保→ 美容医療を担う医師が、知識や技術を身に付ける仕組み作りが重要に。
- 医療全体の課題→ 美容医療だけでなく、病院医療や地域医療の将来ともつながる。
こうした美容医療の拡大は、地方や一部診療科で医師不足が課題となる中で、医師偏在の問題とも結びついて厚生労働省では議論されている。国は診療所の開業ルールの見直しを検討しており、事前の届け出や不足する医療機能への協力要請、許可制の導入も論点になっている。
ただし、筆者としては、開業規制だけで直美や美容医療への流入を抑えるには限界があるととらえている。美容医療は自由診療なので、保険診療を扱わない美容クリニックには、規制は届かない。
流出が続く以上は、美容医療を担う医師が十分な知識や技術を身に付け、安全に診療できる仕組みを整えることに対策を打つ必要がある。直美の問題は、若手医師の進路選択の問題であると同時に、美容医療の質と安全をどう担保するかという問題でもある。
美容医療を考えることは、美容外科や美容皮膚科だけを見ることではない。若い医師がどの分野を選ぶのか、地域医療を誰が担うのか、病院でのキャリアをどう魅力あるものにしていくのかという、日本の医療全体の課題ともつながっている。
次回は、具体的な直美の医師の実際を分析した論文を取り上げる。
参考文献
Yamamura M, Ozaki A, Kaneda Y, Tsubokura M, Tanimoto T. The ‘Chokubi’ phenomenon: young physicians’ exodus from state service to private medicine in Japan. QJM. 2025 May 1;118(5):315-316. doi: 10.1093/qjmed/hcae201. PMID: 39475442.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39475442/
東京都の美容外科医師数が4年間で1.6倍に、平均年齢が低下し、女性医師の割合は上昇、東京都が令和4年度の医師数などの最新情報を発表
https://biyouhifuko.com/news/japan/9129/
美容クリニックが3年で4割の急増、開業規制が強化される可能性、国が医師不足が課題になる中で対応策を模索中、美容医療を考えることは国の医療全体を考えること【編集長コラム】
https://biyouhifuko.com/news/column/10032/
美容医療医師「直美」の経歴とは?美容医療チェーン院長の独自調査、初期研修後すぐに美容クリニックに入職4人に1人も
https://biyouhifuko.com/news/japan/7018/
