
若い医師の倫理観の問題を考えていくと、彼らだけの問題ではないと気が付く。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)
連載「美容医療流入」第5回では、美容医療の倫理を考える。
第1回から第4回では、「直美」をめぐる背景として、報酬や働き方、SNS、専門性の見えにくさを見てきた。
その先に残るのが、自由診療として広がる美容医療を、医療としてどう扱うのかという問題だ。
これは「若い医師に倫理観が足りない」と言って終わる話ではない。第4回では、学会や専門団体が美容医療の専門性をどう示すかを見た。第5回ではさらに、自由診療として広がる美容医療が、医療としてどこまでコントロールされているのかを考える。その先には、国が医療制度としてどこまで関わるべきなのかという問いが見えてくる。
美容医療で何が倫理問題になっているのか

再生医療を原因として死亡が発生。(出典/厚生労働省)
- 安全性の問題→ 美容医療では重大な健康被害や死亡事故が起きており、命に関わるリスクもある。
- 説明と同意が重要→ 効果だけでなく、合併症や後遺症を十分に説明する必要がある。
- 広告やSNSも課題→ 発信のあり方は美容医療の信頼に直結し、規制強化も進んでいる。
美容医療をめぐる倫理問題は、一つの事件だけで語れるものではない。ヒフコNEWSで読まれてきた記事を見ても、問題は複数の方向から表れている。
まずあるのは、安全性の問題だ。
「脂肪吸引のリスク、施術後、気道閉塞で窒息死するケースも」「脂肪吸引のリスク、40人に1人が合併症に、日本では死亡事故も発生」「マイクロ波による腋窩多汗症治療機器の使用者で死亡事故、医学会が適正使用呼びかけ」「再生医療で死亡事故、足を運んでみて分かったこと」──。

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こうした記事で取り上げてきたように、美容医療では重大な健康被害が起きている。見た目を変える医療であっても、身体に介入する以上、失敗すれば生活の質を損ない、場合によっては命に関わる。
次に、説明と同意の問題がある。
「PRP+bFGF、施術後しこりの訴えで美容クリニックが解決金」や「美容医療の契約トラブルが急増、2024年度の傾向明らかに」などの記事で見えてきたのは、利用者が十分に理解しないまま施術や契約に進む危うさだ。

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自由診療では、効果だけでなく、合併症や後遺症などまで説明する必要がある。説明が不十分なまま高額契約や即日施術に進めば、医療は販売優先のビジネスに近づきかねない。
広告やSNSの問題も大きい。「美容医療の『違法ライン』を厚労省が通知で明示」「美容医療の『無資格診断・施術』違法性を明確化」などでも扱ってきたが、広告や発信のあり方は美容医療の信頼に直結する。現在、規制強化が進んでいるところだ。

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契約、経営、信頼の問題へ広がる

ミュゼプラチナム。(写真/編集部)
- 契約トラブルが続く→ 医療脱毛やエステの破綻などで、返金や契約をめぐる問題が起きている。
- 職業倫理も問われる→ 献体SNS投稿や盗撮など、医療への信頼を揺るがす問題も起きている。
- 個人だけでなく仕組みの問題→ 美容医療の倫理は、医師個人の心がけだけでは解決しにくい。
さらに、経営の問題がある。
「医療脱毛アリシアクリニック 運営2社が破産手続開始」「ミュゼプラチナム、ついに経営破たん」「医療脱毛クリニック突然閉鎖、医療ローン返金不可に」など──。
施術を受け損ねるだけでなく、契約や返金をめぐって利用者が被害を受ける問題が続いた。現場の医師だけでは止めにくい構造が生まれやすい。

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そして、職業倫理そのものを揺るがす問題も起きている。
「献体を軽率にSNS投稿、女性の美容外科医に非難殺到」や「日本美容外科学会(JSAPS)が声明を発表、献体のSNS投稿問題で、『医療従事者としての倫理観を著しく欠いたもの』」は、医療の信頼が問われた。最近も、東京大学大学院の元教授が共同研究をめぐる収賄容疑で逮捕された問題、美容皮膚科クリニックの盗撮といった問題も起きた。

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このほか、「兵庫・無資格の美容施術を摘発」「未承認『スーパープラセンタ』で医薬品販売会社の社長逮捕」「品川美容外科、『模造糸リフト』巡る特許侵害訴訟で敗訴」なども関連しているだろう。
こうして見ると、美容医療で言われる「倫理観の欠如」は、単なる個人の態度の問題ではない。
ここに挙げたように、①安全性、②説明と同意、③広告とSNS、④契約と利用者保護、⑤経営と資金、⑥職業倫理と信頼──という、複数の問題として表れている。
美容医療の倫理とは、医師個人の心がけだけではなく、仕組み全体の問題である。
チェーン化と市場拡大が、倫理問題を悪化させる

IMCAS World Congress 2026で講演した米ボストンコンサルティンググループのロッシ氏。(写真/編集部)
- 大型化が倫理問題を加速→ チェーン化や売上目標が、施術を増やす方向に現場を動かす可能性がある。
- 市場拡大で資金流入→ 美容医療が成長産業と見られ、投資や企業再編が進んでいる。
- 医療判断が揺らぐ懸念→ 医師や看護師が、売上を支える仕組みの一部になりかねない。
美容医療の倫理を考える上で、筆者が注目しているのは、医療機関の大型化だ。
上に挙げた記事とも関連するが、美容医療をめぐっては、高額契約、即日契約、強い勧誘、返金トラブル、経営破たんなどがたびたび問題になってきた。これは、医療がビジネスとして成長していることと背中合わせの問題と見ている。例えば、売上目標などが設定されれば、現場が「施術を増やす」方向に傾きやすくなる。美容クリニックが大きくなれば、医師や看護師が慎重に判断しようとしても、組織全体が売る方向に動いていれば、拒否しづらくなることが予想される。
このとき問題になるのは、医療機関や医師が、医療判断の主体ではなく、売上を生み出す仕組みの一部として位置づけられてしまうことだ。チェーン化によって経営効率が重視されれば、美容クリニックの組織作りは、ひたすら売上を伸ばす方向に最適化されていく。採用もその例外ではない。その中で生まれるのが、医師や看護師が、組織の売上目標を支える「駒」になっていく構造だ。直美問題も、そこにつながっている。業界でよく問題に挙げられる無資格者のカウンセラーや施術も、ビジネス化の副作用と見ることもできる。
こうした巨大化は世界的に起きており、それに伴う問題はどこでも起こり得ることだと考えている。美容医療は、世界的に成長産業として見られている。ヒフコNEWSで伝えたように、IMCAS World Congress 2026では、米ボストン コンサルティング グループ(BCG)のセルジオ・ロッシ氏が、世界の医療美容関連製品市場は約240億ドルに上り、2030年まで年率5〜7%の成長が見込まれると報告していた。1ドル160円で換算すれば、約3兆8400億円に当たる。
日本市場も拡大している。矢野経済研究所が2025年6月に報告した調査によると、2024年の国内美容医療市場は前年比6.2%増の6310億円に達した。
市場が大きくなれば、資金が集まる。投資会社や企業は成長分野として美容医療に目を向け、チェーン医療機関の拡大や、医療機器メーカーや製剤メーカーの再編、販売強化へと進んでいく。実際、欧米、南米などで、米国のメディカルスパが有名だが、美容皮膚科の巨大なチェーンが拡大し、地元の美容医師との間で価格競争を起こしたり、合併症や後遺症の問題、無資格診療などの問題でトラブルになったりしている。
米国の形成外科領域を対象にした2025年の研究では、投資ファンドなどの外部資本による形成外科クリニックの買収が増えていることが報告されている。研究は、こうした資本参加が経営の効率化につながる可能性がある一方で、医療の質や公平性などの課題につながる点を指摘している。
医療機関の大型化や市場拡大が、①安全性、②説明と同意、③広告とSNS、④契約と利用者保護、⑤経営と資金、⑥職業倫理と信頼──という問題を加速させる可能性があると筆者は見ている。
直美だけを責めても問題は解けない

厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」報告書。(出典/厚生労働省)
- 美容医療は周辺領域へ拡大→ 体重管理、老化、栄養、ホルモン、ウェルネスにも広がっている。
- 若い医師だけの問題ではない→ 直美を責めるだけでは、美容医療全体の課題は解決しない。
- 国の関与が問われる→ 自由診療として広がる美容医療を、制度としてどう扱うかが重要になる。
さらに、美容医療は周辺領域にも拡大している。美容医療は、顔や皮膚の施術にとどまらず、体重管理、老化、栄養、ホルモン、ウェルネスへと広がっている。
ここもビジネスにつながりやすいと考える。最近問題になっているマンジャロなどの薬剤をめぐる違法販売や不適切な流通は典型だ。
直美をめぐる議論では、若い医師が批判されやすい。専門性が足りない。経験が足りない。倫理観が足りない。そう言われることが多い。
もちろん、医師一人ひとりが倫理を持つことは必要だ。学会や専門団体も、専門性と倫理の中身を示す必要がある。だが、それだけでは足りない。
自由診療として広がる美容医療を、国がどのように医療制度の中で扱うのか。どこまでを認め、何を規制し、誰が利用者を守るのか。そこを曖昧にしたまま、若い医師だけを責めても問題は解けない。ヒフコNEWSで伝えているように、医療の質と安全性という観点で、国は規制強化に動いている。これが、ここまで挙げたそれぞれの課題の解決にいかに寄与するかは今後注目されるところだ。
直美は、若い医師だけの問題ではなく、学会、国全体の問題ととらえるべきだろう。第6回では、第1回から第5回までを踏まえ、現時点で見えている課題を整理する。
参考文献
「フローズン」から「ナチュラル」へ、価格下落時代の美容医療、発展の鍵は栄養やロンジェビティなどに BCGのロッシ氏がIMCAS World Congress 2026で講演
https://biyouhifuko.com/news/world/16752/
美容医療市場、引き続き拡大し6310億円、矢野経済研究所が報告、2024年も非外科的治療などがけん引、アンチエイジングへの注目など心理的ハードル下がる
https://biyouhifuko.com/news/japan/13379/
Dhawan R, Brooks K, Shauly O, Shay D, Om A, Losken A, Ghareeb PA. Increasing Private Equity Investments in Plastic Surgery Practices in the United States: Analysis of Trends and Consolidation. Aesthet Surg J. 2025 Jun 16;45(7):715-722. doi: 10.1093/asj/sjaf034. PMID: 40059429.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40059429/
連載一覧
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https://biyouhifuko.com/news/column/18108/
