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「直美」問題は医療全体のひずみを映している 美容医療の大転換期に、学会と国はどう向き合うのか 若い医師を責めるだけでは解けない課題【連載・美容医療流入】

美容医療に若い医師が流入していく動きの背景とは。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)

美容医療に若い医師が流入していく動きの背景とは。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 連載「美容医療流入」最終回では、第1回から第5回までを踏まえ、「直美」問題について最後に書いていく。

 直美は、若い医師個人の選択だけでは説明しきれない。美容医療の巨大ビジネス化が進む中で、学会や国の関わり方なども絡み合う課題になっている。

若い医師が美容医療に向かうのは自然にも見える

診療科別の医師数の推移。2018年を100として指数化したもの。(出典/厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」)

診療科別の医師数の推移。2018年を100として指数化したもの。(出典/厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」)

 第1回で取り上げた論文報告では、直美は年間およそ200人、新規登録医師の約2.1%とされていた。美容クリニックでは経験が浅くても年収2000万円を超える求人があり得る一方、病院で働く研修医の平均給与は435万円と紹介されていた。

 この差は、若い医師にとって無視しにくい。ただ、問題は目先の報酬だけではない。保険診療の先行きが見えにくいことも、背景にあると考えられる。

 次のデータを見てほしい。厚生労働省の資料を基にした、外来患者数の見通しだ。外来患者とは、入院せずに病院やクリニックに通って診察を受ける患者を指す。風邪や高血圧、皮膚疾患、整形外科の痛みなどで医療機関を受診する人たちも含まれる。

日本地図上に、外来患者数が最大となる年と、外来医師偏在指標に基づく2040年の外来患者数推計を示した図。

外来患者数が最大となる年(左)と、外来医師偏在指標と2040年の外来患者数推計。(出典:厚生労働省、患者調査(平成29年)「受療率(人口10万対)、入院-外来×性・年齢階級×都道府県別」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」)

 赤いエリアは、その外来患者数が2015年以前にピークを迎えた地域を示している。地図を見ると、こうした地域が全国に広がっていることが分かる。2040年まで外来患者数の増加が続く地域は、首都圏や一部の大都市圏などに限られる。

 一方で、地方医療、救急、外科、産婦人科などでは、いまも医師不足が問題になっている。

 患者が減る地域がある一方で、必要な医療を担う医師は足りない。このずれが、保険診療の難しさを示している。

 背景には、少子高齢化と都市部への人口集中がある。これは医療だけの問題ではなく、他の産業にも共通する構造だ。地方をどう支えるのか。限られた人材をどこに配置するのか。医療も同じ問いに直面している。

 さらに、専門医資格を取るための専門研修では、診療科や地域によって採用上限が設けられる場合があり、都市部で希望通りに研修できるとは限らない。都市部で働きたい、自由に進路を選びたいと考える若い医師にとって、保険診療の専門研修は制約を伴う道にも見える。

 そこに、SNSの影響も重なる。第3回で見たように、SNSで発信される医師像は、若い医師を保険診療から遠ざけ、美容医療に引きつける面がある。美容医療では、働き方、収入、生活、クリニックの雰囲気が見えやすい。将来像を具体的に描きやすい分野に映る。

 一方で、美容医療は目に見えて広がっている。第4回で見たように、美容外科を主たる診療科とする医師は、2018年の678人から2024年には1720人へ増え、6年で2.5倍超となった。国内美容医療市場も、2024年には6310億円に達した。世界市場も約3兆8400億円規模とされ、拡大傾向にある。

 こうして見ると、美容医療に向かう若い医師を、単に保険診療から逃げたと見るのは雑な見方と言っていいかもしれない。若い医師は、保険診療の将来性と美容医療の成長性を比較しながら進路を考えている可能性がある。

美容医療の専門性は誰が示すのか

厚生労働省が「美容医療の適切な実施に関する検討会」第4回を開催。(写真/編集部)

厚生労働省が「美容医療の適切な実施に関する検討会」第4回を開催。(写真/編集部)

 第4回では、美容医療が専門分野として認識されづらいという問題についても見た。

 若い医師が美容医療を進路として選んだとして、その場合に、何の専門性を身につけるかが分かりづらい。学会が分散していて、学会同士が必ずしも協力関係にない。それは、学会にとっては問題ないかもしれないが、若い医師にとっては、この分野の分かりづらさ、専門性を身につける難しさとして受け止められるだろう。

 それに対して、例えば、オーストラリアでは、美容外科手術を行う医師に一定の研修や資格要件を求める方向で制度整備が進んでいる。こうしたルールがある方が、若い医師にとっても学ぶ道筋は見えやすくなる可能性がある。このほかフランスでは、美容外科の研修制度を国も参加して始めた。日本はどうしていくのだろうか。

 そうした中で、美容医療の混乱ばかりが社会に目立っていることを第5回で書いた。

 事故、契約トラブル、不祥事が相次ぎ、美容医療の評価は高まる気配を見せない。

 国民生活センターは、美容医療に関する注意喚起を継続的に行っているが、高額契約や返金トラブルの情報ばかりが目立つ。国民生活センターは消費者保護を目的とするため当然だが、この情報は大手メディアにも取り上げられやすいので、美容医療はトラブルメーカーとして広く認識される。

 一方で、ヒフコNEWSのように、国内外の学会に取材をしていると、前向きに美容医療を良くしようとしている医師に出会うこともあるが、美容医療の主要学会である日本美容外科学会(JSAS)には、国内メディア向けの取材窓口がなく、取材対象として選びづらい。結局ブラックボックスで、美容医療の価値が社会に伝わるきっかけも少ない。

 美容医療の評価を高めようとしたら、それができるのは美容医療業界しかないのではないだろうか。ここは学会などが動くことで好転する可能性はある。

 この辺りは情報発信の課題と言えるだろう。

 2024年には厚生労働省が「美容医療の適切な実施に関する検討会」を開催し、その後、法令解釈の整理や医療安全確保に向けた制度整備が進んでいる。こうした動きをきっかけに、現場が変わっていくことが望まれる。

保険診療をどう支え、美容医療をどう育てるか

病院の課題。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

病院の課題。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 この連載で見えてきたのは、若い医師の問題として注目され始めた「直美」が、さまざまな部分での美容医療のひずみと関連しているのではないかということだ。

 今回、連載で見てきたほかにも、課題はあるだろう。美容クリニックを含めた医療機関の経営問題、美容看護師など医師以外の医療スタッフの状況、日本医師会をはじめ他の医療関連団体、再生医療、インバウンド、海外の国々の美容医療問題、美容医療ユーザーの動向、流行、メディアなどについてあまり触れていない。

 また、現場のもっと細かい問題については触れられていない。美容クリニックの内部には、さらに多くの問題があるに違いない。ヒフコNEWSには、信じられないような問題が寄せられることもある。

 この連載で指摘できたことには限界もあると思うので、引き続き、こうした課題にも目を配っていきたい。

 何かお気づきの点があれば、情報提供をお寄せいただけましたら幸いです。

参考文献

外来医師偏在指標でみた二次医療圏別の外来患者数推計の推移
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001040962.pdf

連載一覧

  • 医師はなぜ美容医療を目指すのか 「直美」は個人の選択だけで語れない 若い医師の流れをどう見るか 日本人研究者の寄稿を手掛かりに【連載・美容医療流入】
    https://biyouhifuko.com/news/column/18028/
  • どんな若手医師が美容医療へ向かったか 「直美」の道を選んだ4人を検討 研修中の評価や留年歴との関連も報告 進路選択の背景を探る数少ない研究【連載・美容医療流入】
    https://biyouhifuko.com/news/column/18045/
  • なぜ美容医療は若手医師に身近に見えるのか SNSと働き方が変える進路選択 「直美」はどう生まれるのか【連載・美容医療流入】
    https://biyouhifuko.com/news/column/18058/
  • 美容外科医は6年で2.5倍超 美容医療は専門分野としてどう見られているのか 若い医師を引きつける一方、学びの場が見えない 専門性も社会に伝わりづらいまま【連載・美容医療流入】
    https://biyouhifuko.com/news/column/18074/
  • 美容医療の倫理はどこで守られるのか 事故や契約トラブル、不祥事が相次ぐ中で 自由診療の拡大とビジネス化で露わになる限界 巨大な産業になる中で、国の関わりを考える【連載・美容医療流入】
    https://biyouhifuko.com/news/column/18093/
  • 「直美」問題は医療全体のひずみを映している 美容医療の大転換期に、学会と国はどう向き合うのか 若い医師を責めるだけでは解けない課題【連載・美容医療流入】
    https://biyouhifuko.com/news/column/18108/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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