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なぜ美容医療は若手医師に身近に見えるのか SNSと働き方が変える進路選択 「直美」はどう生まれるのか【連載・美容医療流入】

研修医はどう未来を決めるのか。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

研修医はどう未来を決めるのか。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

 第1回では、初期研修後すぐに美容医療へ進む「直美」が、報酬や働き方だけではなく、病院でのキャリアの見えにくさとも関係している可能性を見た。第2回では、実際に美容医療を最初の進路に選んだ若手医師4人を検討した研究を取り上げた。

 では、美容医療はなぜ、若い医師にとって進路の候補として浮かびやすくなっているのか。

 連載「美容医療流入」第3回では、その見え方を変えているものとして、SNSに注目する。

 SNSというと、美容医療の広告や症例写真が話題になりやすい。ただ、影響はそれだけではない。医学生や初期研修医が進路を考える場面でも、SNSが関わっていることを示す研究が出ている。

 スマホ画面には、さまざまな医師の姿が映る。働き方、収入、生活、診療科の雰囲気。そこに映るものは、進路のイメージを少しずつ変えていく。若手医師の目には、美容医療はどのように映っているのか。

医学生や研修医の約75%がSNSの影響を受けた

さまざまなSNSサービス。(写真:Adobe Stock)

さまざまなSNSサービス。(写真:Adobe Stock)

  • SNSが進路に影響→ 医学生や初期研修医の約75%が、進路選択でSNSの影響を受けたと答えた。
  • 情報源は身近な媒体→ YouTube、Instagram、Xなどが、診療科や働き方を知る手段になっている。
  • 働き方も判断材料に→ 診療科の雰囲気や生活、子育てとの両立まで含めて進路を考える材料になっている。

 2025年に発表された日本の研究では、医学生と初期研修医101人を対象に、SNSが進路選択に与える影響を調べている。その結果、約75%が、進路選択を考える上でSNSの影響を受けたと答えた。

 よく使われていたのは、YouTube、Instagram、Xだった。

 この研究は、美容医療を直接調べたものではない。目的は、外科を志望する医学生や初期研修医を増やすために、SNSの影響を調べることにあった。ただ、若い医師が進路を考える場面で、SNSが既に無視できない情報源になっていることは分かる。

 興味深いのは、SNSの影響を受けた人で、外科系への関心が高い傾向も見られた点だ。また、外科を志望する条件として、育児休業制度を重視する傾向も示された。SNSで見ているのは、華やかな情報だけではない。診療科の雰囲気、働き方、将来の生活、子育てとの両立まで含めて、進路を考える材料になっているとも見られる。

 医学生の進路選択が、周囲の情報や出会いに影響されること自体は新しい話ではない。2007年の日本の研究では、自分や家族の病気の経験、実習での経験、診療科の雰囲気、指導医やロールモデルの存在などが、専門分野の選択に影響するとまとめられていた。

 当時は、実習先や先輩、指導医、家族など、リアルな出会いが進路選択に大きく関わっていた。今はそこに、SNSを通じたバーチャルな出会いが加わっている。実際に会ったことのない医師の働き方や生活がスマホ画面に映るようになり、第1回で見たような報酬や働き方の違いも見えやすくなった。その中で、美容医療の存在感が増している可能性がある。

美容医療はSNSと相性が良い

スマホの画面に映るものは。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

スマホの画面に映るものは。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

  • 美容医療は見えやすい→ 症例写真や短い動画で変化を伝えやすく、SNSとの相性が良い。
  • 働き方も伝わりやすい→ 医師の生活や収入、クリニックの雰囲気が画面越しに見えやすい。
  • 見え方には注意も必要→ SNSでは分野の一部が大きく見えやすく、医療広告として慎重な発信も求められる。

 美容医療は、もともとSNSで注目されやすい分野だ。見た目の変化を扱うため、症例写真や施術内容が写真や短い動画で伝わりやすい。そこに、クリニックの雰囲気、医師の働き方、収入や生活に関する投稿も加わる。利用を考える人にとって分かりやすいだけでなく、若手医師にとっても、その働き方が身近に見えやすい。

 クリニック側も情報発信に力を入れやすく、医師個人がSNSで存在感を出すこともある。美容医療は、画面の中で「どのように働くのか」が比較的伝わりやすい分野といえる。

 一方で、病院での専門研修や保険診療の魅力も、SNSやメディアを通じて伝えられている。外科、救急、産婦人科、地域医療などの現場には、専門性ややりがいがあり、ドラマやドキュメンタリーのように人の心を動かすものも多い。ただ、それが若手医師にとって、進路としての働き方や生活の見通しまで分かりやすく示しているとは限らない。病院医療では、多忙さ、当直、自己研鑽、責任の重さも同時に見えやすい。

 美容医療は身近な働き方として映りやすく、病院でのキャリアは魅力と負担が並んで見えやすい。この見え方の差は、若手医師の進路にも影響している可能性がある。

 もっとも、医療情報の発信は本来、慎重でなければならない。医療広告として発信できる情報には制限があり、2026年3月の厚生労働省の事例解説書第6版でも、SNSや動画の広告事例が取り上げられている。美容医療の情報発信はこれまでSNS上で活発だったが、その分、見せ方にはいっそう注意が求められている。

 形成外科や美容外科領域についてまとめた2024年の海外レビューも、この問題を考える手掛かりになる。このレビューでは、医学生は形成外科領域に好意的な印象を持つ一方で、その理解は美容や審美に偏りやすいとされた。形成外科には、再建、外傷、手外科、熱傷など幅広い領域があるが、医学生には美容・審美の手術の方が認識されやすかった。メディア、SNS、インターネットは、こうした認識に強く影響していた。

 教育や実習で形成外科の実際に触れると、認識は改善する可能性がある。見えやすい情報だけでは、分野の一部が大きく見えやすいということだ。美容医療への関心も、この延長線上にある。画面上で繰り返し見えるものは、進路としても近く感じられやすい。

進路は最初から固まっているわけではない

どんな医師を目指すか。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)

どんな医師を目指すか。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • 進路は最初から固定されない→ 医学部入学時に、医師になる明確な意思を持たない学生も一定数いる。
  • 研修中に進路が形づくられる→ 実習や初期研修での経験、先輩医師の姿が進路選択に影響する。
  • SNS上の医師像も材料に→ 進路が固まらない時期に、スマホで見る働き方が判断材料になり得る。

 では、SNSで見える情報は、どのような若手医師に届いているのか。

 まず見ておきたいのは、医学生の全員が、医学部に入る時点から明確な将来像を持っているわけではないという点だ。

 2025年の日本の研究では、国立大学の医学部生を対象に、医学部入学時の動機を調べている。その結果、28.8%は、入学時に医師になる明確な意思を持っていなかった。そうした学生では、親の期待や同級生の影響が進学理由として目立っていた。

 これは、医師に向いていない学生がいるという話ではない。医学部に入ってから学び、実習に出て、初期研修を経験する中で、自分の進む先を考えていく学生も少なくないということだろう。

 医学生や若手医師の進路は、最初から一本の線で決まっているわけではない。学ぶ中で、出会う中で、見えるものが変わり、少しずつ形づくられていく。

 その意味で、初期研修は大きい。初期研修では、内科や救急、地域医療などを回りながら、医師として働く現実を近くで見る。どの診療科に手応えを感じるか。どの働き方なら続けられそうか。どの先輩の姿に引かれるか。逆に、どの働き方には無理を感じるか。そこで進路の見え方が変わる。

 そして今は、その見え方をつくる場所が実習先や病院の中だけではなくなっている。SNS上にも、さまざまな医師の姿がある。進路がまだ固まりきっていない時期に、スマホ画面の中で見える働き方や生活が重なれば、それもまた、次の進路を考える材料になり得る。

働き方改革で、学び方も揺れている

研修医が進路を決めるきっかけはどこに。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

研修医が進路を決めるきっかけはどこに。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)

  • 働き方改革で環境が変化→ 時間外労働の上限により、病院での働き方や学び方が揺れている。
  • 学びの機会への不安→ 経験を積みたい若手医師にとって、症例や手技の機会が減る懸念もある。
  • 収入や成長の見通しも課題→ 自己研鑽が労働時間として扱われない場合、病院キャリアが見えにくくなる。

 ここに近年、働き方や収入、学び続ける環境への関心が重なっている。

 2020年に発表された、日本赤十字社の研修病院に所属する研修医を対象にした調査では、専門を選ぶ際に、診療内容への興味だけでなく、仕事と生活のバランスも重視されていた。若い医師にとって、どの分野で働くかは、単に専門性の問題ではなく、どのように働き続けるかという問題でもある。

 2024年には医師の働き方改革が始まり、時間外労働の上限が設けられた。長時間労働を見直すことは重要だ。第1回でも触れたように、病院で働く若手医師にとって、働き方は進路選択と切り離せない問題になっている。

 ただ、若手医師の側から見ると、話はそれほど単純ではない。

 働き方改革によって「働き過ぎ」が抑えられる一方で、もっと働いて経験を積みたい、手技を学びたい、症例を経験する機会まで制限されるのではないかという不安がある。さらに、勤務時間として扱われない学びや準備が増えれば、形の上では労働時間が減っても、実際にはただ働きに近い時間が残ることになる。

 2025年に発表された医学生調査では、医師の時間外労働規制について、27.9%が制度開始そのものを知らなかった。一方で、自由記述では、無償労働が増えるのではないか、学ぶ機会が減るのではないかという懸念が示されていた。

 働く時間を減らすだけでは、若手医師の不安は消えない。どこまで学べるのか。勤務時間外の勉強や技術習得はどう扱われるのか。努力が適切に評価されるのか。そこが曖昧なままだと、病院に残って専門性を高める道そのものが見えにくくなる。

 2025年に発表された、岡山大学の研究者も加わった産婦人科医の全国調査も、この問題を別の角度から示している。2024年4月の規制導入後も、全体として労働時間や仕事満足度には大きな変化がなかった。一方で、約40%は自己研鑽に使った時間を労働時間として申告していなかった。さらに、収入が減る見通しであることや、自己研鑽の環境に満足できないことは、仕事上の幸福度を下げていた。

 若手医師にとっては、「忙しすぎる病院」が問題であると同時に、「学びたいのに働かせてもらえない病院」「働いても勤務時間として扱われない病院」も問題になり得る。負担はあるのに、収入や成長の見通しは立ちにくい。

 そう感じたときに、美容医療の現場はどうだろうか。

美容医療は「近い道」として見えやすくなっている

  • 美容医療が近く見える→ SNSを通じて、美容医療の働き方が具体的な進路として意識されやすくなっている。
  • 病院勤務との比較が起こる→ 収入、働き方、学び続ける環境を比べる中で、美容医療が候補に入りやすい。
  • 遠い世界ではなくなる→ 病院での負担感とSNS上の情報が重なり、美容医療を現実的な道として見る可能性がある。

 今回見てきた複数の報告は、美容医療を直接調べた研究ではない。それでも、若い医師が病院勤務の将来像をどう見ているかを考える材料になる。

 忙しいかどうかだけではない。収入はどうか。学び続けられるか。自分の時間は残るか。努力は評価されるか。そうした要素が並んだ先に、専門研修に進むのか、別の道を考えるのかという判断がある。

 もちろん、SNSを見たから美容医療へ進むという単純な話ではない。第1回で見たように、報酬や働き方、病院でのキャリアの見通しにくさも関わっている。第2回で見たように、実際に美容医療を選んだ若手医師の背景を調べる研究はまだ限られている。

 ただ、若い医師が美容医療を進路として意識しやすい条件はそろいつつある。医学部に入った時点では、将来像がまだぼんやりしている学生もいる。初期研修では、病院で働き続ける現実を間近に見る。働き方、収入、学び続ける環境も気になってくる。そこに、SNSで見る美容医療の医師像が、具体的な手触りを持って目に入ってくる。

 美容医療への関心は、ある日突然生まれるものではないのだろう。実習先で見た先輩の疲れた表情、病院で感じた勤務の重さ、スマホ画面で繰り返し目にする別の働き方。そうしたものが少しずつ積み重なり、美容医療が「遠い世界」ではなくなっていく。直美を考えるなら、その見え方の変化も避けて通れない。

 第4回では、若い医師を引きつける美容医療そのものが、どのような専門分野として見られているのかを考える。

参考文献

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ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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